酒を楽しく飲むために

「白玉の歯にしみわたる秋の夜の、酒は静かに飲むべかりけり」

若山牧水の心境とは裏腹に、飲めや、歌えや、踊れやのクリスマス、忘年会の月がきました。
なんといっても、今年最後のチャンス、一年の垢をアルコールで洗い流したいものですが、慣例の如く、二次会、三次会・・・・・と果てしなく続くのでは、気力があっても体の方がネをあげそうです。またトラになれば騒乱罪を適用されかねないご時世です。

私も数年前まで、随分きばって飲んだものです。あるときは、ウイスキーを一本あけて、一週間ほど嘔吐を繰返したり、二日酔いでフラフラになり、ブドー糖とグロンサンを混ぜて注射をして、二日酔いをごまかしたりしたものでした。一度のみ助の前歴を作ると、最近になっても昔の悪友がしつこくつきまといます。今では、学生時代や、インターン、大病院勤めの気楽な医者のように気ままにふるまえません。第一、二日酔いでは責任ある診察ができません。そこで、何とか酒を上手に沢山飲める方法はないものか、二日酔いしてもすぐによくなる方法は?と宴会の前に腹ごしらえをするーこれもやってみましたが、これでは酒がうまくありません。ネストンがよいというので、これをのみ、勇んで他流試合を申し込みましたが、あえなくノック・アウト。

窮すれば通ずとはうまく言ったものです。西洋医学では、良い方法がない。そうこうしているうちに、漢方の勉強をしていると黄連解毒湯おうれんげどくとうと言う「酒の毒を消す」よい薬がありました。江戸時代の名医、和田東郭先生の本の中に、酒を飲んで苦しがり、からえずき、口渇、呻吟、錯語、不眠をおこした病人にこの薬を与えると、一服で目はっきり見え、二服で粥を食べることができたと書いてありますが、確かに酒毒によい薬です。酒を飲む一時間位前に、この薬を一服のんでおきます。そうすると、お酒が気持ちよく飲めます。悪酔いも二日酔いもせず、酒に強くなったような気がして何か冷静な気持ちで飲めます。神経質な人で、心下部が張るような気がする人には、四逆散という薬を加えた四逆解毒湯がよろしい。

酒を飲みすぎた夜、とても咽が乾くことがあります。私もヤカンを枕元において寝たことがよくありましたが、不思議といくら水を飲んでも小便にもいきません。こんなとき、五苓散ごれいさんを一服のんでみて下さい。あれ程激しかった口渇もとれ、小便がどんどん出て、酔いがさめてきます。

飲んだ翌日、肩がこって頭がいたくて仕事ができない、そんなときには、風邪薬二号(葛根湯)がよろしい。酒を飲んで下痢する人には、連葛解醒湯れんかつかいせいとうがききます。この二つの処方にある葛根(クズの根)は「酒毒を解す」作用があります。だから吉野クズを常備しておいて飲んでも、急場をしのげます。順気和中湯じゅんきわちゅうとうは飲酒後の胃痛にききます。

酒を飲んだ後の嫌な二日酔い——ムカついて食事ができないような場合、大抵口渇がつよいものですが、五苓散をコップ半分位の熱湯にとき、少量ずつ時間をかけて服用すると、嘔吐がとまり、元気になります。五苓散は便利な薬で、飲みすぎた翌日、何か頭がボンヤリしてはっきりしない、頭が重い、軽いめまいがする、口がとても乾くといったときに一服のめば、このような症状がなくなります。「口がとても乾く」ところを目あてにして五苓散を飲んで下さい。

これらの薬を備えて忘年会に臨めば、悪酔いを防ぎ、楽しく一年の疲れを流し去り、元気に新年を迎えることができます。いずれの薬も、聖光園の先生方が、自ら進んで貴重な人体実験をした効能著明な酒の薬です。

1968年12月 細野八郎(完爾)

この記事を書いた医師

細野 完爾(八郎)(ほその かんじ はちろう)(1930-2020)

院長 細野孝郎の父
昭和31(1956)年京都府立医科大学卒業 昭和33(1958)年聖光園細野診療所にて勤務開始

幼少のころ、小児喘息にひどく悩まされ、父細野史郎の漢方治療により病を克服。父の意志を受け継ぎ、喘息やアレルギー性疾患など多くの患者の漢方治療にあたる。

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