細野漢方診療所 Hosono Kampo Clinic
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糞尿譚

人間である以上、否生物である以上、栄養の摂取と同時に排泄と云うことを毎日かかすわけにはゆきません。毎日毎日来る日も来る日も大便をし、小便をしない人はありません。それほど、日常のことである大小便でありながら、案外無関心に過ごしている人があります。病院でも人間の健康をしらべるのに先ず大便を手がかりとして検査するわけです。

食べた食物が腸で吸収されたカスに、消化管の分泌物や腸の中にいる菌などが混ざって出てくるのが大便ですが、既に教科書に書いてあるようなことは一切抜きにしましょう。

先ず便通は一日一回行けば十分であるかと云うことです。よく「お通じはいいですか」と云うと「ハイ毎日一回行って、いいです」と答える人がありますが、これだけでは不十分です。
勿論便秘で幾日も便通がないと云うのはいけないことで、長い腸に停滞している中に分解した悪い物が吸入されて頭痛を起こしたりしますし、第一に便秘している腸の状態が既に正常の機能をもっているとは云えません。

然し毎日一回便所に行くからと云ってそれだけではまだ不十分です。きれいに出切ってしまうと云うことが大切なことです。大便をするのに時間が長くかかって何だか残った感じがしたり、出してしまった後で、お尻に一杯くっついているようでは恐らく腸の壁にもまだ一杯ついてるので本当の排泄とは云えません。理想的なのは太くて長いのがすーと出て、紙が不要なくらいさっぱりと出切ってしまい、出た便も臭いイヤなニオイのしないと云うことが大切です。

食餌の質や量にもよりますが、量はむやみに多いのは吸収がわるいので必ずしもよくありません。回数は之も食事の種類によって異なって来ます。野菜を沢山たべると二回、三回とゆくこともあります。元来胃へ物が入ると大腸も動き出し排便が起ると云うのが原始的な姿であり、赤ちゃんはこの形をとりますが、大人は先ず、一、二回と云うところでしょう。太いと云うことを書きましたが、大腸の太さは随分太いものですから健康便は相当太い筈です。子供でも健康な子は驚く程太い便をするものです。神経質な人は細い便しか出ません。神経がハッて腸をしめているのでしょう。

昔倭寇がその強さを示すために竹筒へ大便をつめて太くしておいたと云う話を歴史の先生に聞いたことがありますが、太い大便がでるようでなければ本当にキモッタマのすわった人とは云えないでしょう。旅行したり心配したりすると便秘することがあるように、神経の状態によって非常に影響されるものです。宗教で安心と云いますが、心のゆったりとしたおちつきが、いい大便をするのに必要なわけです。

道教ではトイレットペーパーの大きさがお坊さんの偉さを示すそうです。偉いお坊さんになるに従って修行がつんで紙が小さくてすむわけだそうです。修行にしろ修養、修身にしろ心の問題は勿論のことながら、行、身のヤシナイと生理学を離さず考えている所に東洋の考え方の偉大さがあります。誠に人間は心だけでも体だけでもなく心身一如でありまして、心をみがくには行を忘れてはならず、健康を得るに心のおさめを忘れてはならないわけです。

同様に匂いが大変に重大です。不健康な人の入った後の便所は何とも云えぬ臭いのするものです。食べたものが本当に吸収されずに腸の中で悪く変化しているわけです。

カタサは固からず、軟かからずと云うところ、そんなに固くなくてもベタベタと粘着性のないことが大切です。赤ちゃんのオムツを洗うとわかりますが、悪い便は中々とれませんし、いい便のオムツは水洗いでサラサラととれます。色は黄色が余りうすいと吸収が十分にされていないのですし、余りこい色のものもいけません。長く腸にあったり、肉食のすぎた人は黒くなります。タール様と云って、黒ずんだのは血が入っているので胃潰瘍などの時におきます。

便通だけでなくすべての生理現象は習慣性をもっています。読書のようなことでも毎日毎日。
習慣づけて之をくずさないようにしないとなかなかいい読書は出来ないものです。女性は珠にメンドウがったり、外出先で便所へ入るのをオックウがったりして、習慣性の便秘になりがちですから、便意を催さなくても、毎日ゆくようにすることも大切なことです。

便秘の時にいい食物はその場合により色々です。過食で便秘した時は食事をひかえることが大切であり、ビタミンの不足でなった時は、エビオスをのむとゆくと云うことになりますが、一般的に云いますと、先ず玄米は大変よろしい。玄米をたべれば先ず便秘に悩むと云うようなことはありません。小豆を入れてたけば更によろしい。その他菜っぱに油揚、ヒジキの油煮、天ぷらそばなどはよく通じをつけるものです。肉食の過多で便通のない人は果物をたべると通じがよくなると云いますが、冷え性やアトニーの人には冷たい果物は余りよくありません。

1955年12月 細野史郎

出典:「病と漢方」1980年発行

この記事を書いた医師
細野史郎(1898-1989)

細野 史郎(ほその しろう)(1898-1989)

院長 細野孝郎の祖父
昭和2(1927)年京都帝国大学医学部卒業 昭和3(1928)年細野医院開設(後の医療法人聖光園細野診療所)

長男の小児喘息を治したい一心で漢方治療に取り組み、治療に成功する。以降も熱心に漢方治療に取り組み、京都の他、東京、大阪でも診療にあたる。日本東洋医学会設立に尽力し、昭和27(1952)年日本東洋医学会理事長に就任。多年に亘る東洋医学振興の功績により、昭和56(1981)年文部大臣賞を受賞。

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