胃もたれ・食欲不振・胃が重いなど胃の不調の漢方

漢方では消化器系の働き、胃腸を整えることをとても大切に考えます。食べた物が消化吸収されて、はじめて体を動かすことができ、内蔵も働き始めます。どんなに良い薬を処方されても、吸収されなければ意味がありません。飽食の時代の今、食べ過ぎ飲み過ぎによる胃もたれ、胃の不調を起こす人も多いでしょう。また、疲れると消化機能の低下により食欲がなくなることもあります。精神的に大きなストレスを受けた時も食欲不振となります。生まれながらに胃腸の弱い人、現代の生活の中で胃腸の調子が悪くなる人、様々な要因や状態に応じて対応できる多くの漢方処方があります。

その中からポピュラーな4つの処方を紹介します。それぞれ作用が微妙に異なるので上手に使い分けなければなりません。比較的使われやすいのは安中散あんちゅうさん六君子湯りっくんしとう人参湯にんじんとう平胃散へいいさんなどかと思います。半夏瀉心湯はんげしゃしんとうも頻用する胃腸系の漢方ですが、黄芩や黄連など比較的作用の強い生薬を含むので、こちらは腹診をしてもらわずに適当に買って服用することはお勧めしません。今回は試しやすい4つの処方について見てみます。これらの処方は重複する生薬もお互いに少ないので、体感や作用は大きく違うと思います。

それぞれを簡単に見てみます。安中散は延胡索えんごさく牡蠣ぼれいを含むので、胃痛、腹痛がありさらに胃酸が多い症状(胸焼け、吐き気)などがある時に効果がある処方です。一方、六君子湯は胃腸系の気を補う四君子湯しくんしとう陳皮ちんぴ半夏はんげと胃を動かす生薬が加えられています。つまり六君子湯には胃の中の過剰水分を排出する作用があります。胃腸の動きが悪くて、そのためお腹にぽちゃぽちゃと水が溜まり食欲のない場合に用いる処方です。

人参湯は人参が主薬で、さらに乾姜かんきょうが入っています。この2つの生薬で胃腸を温める作用があります。他には胃腸の水分代謝を良くする生薬が入っています。お腹が冷えて痛い、胃が冷えて動き悪くて食欲がないなどの場合に効果があります。

以上の3処方は比較的体の「虚」したタイプの方に合うのですが、平胃散は少し異なります。これは気を補うのではなく、むしろ胃腸の気を回すことにより胃を動かす生薬が主です。そこに水はけが良くなる生薬が組み合わさっています。上記の3処方と比べると、体が丈夫で胃もたれする人、食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸の具合が悪い人などが適応となるでしょう。

4処方の比較

安中散加茯苓 平胃散 人参湯 六君子湯
良姜
縮砂
大茴香
桂枝
牡蠣
炙甘草
延胡索
茯苓
蒼朮
厚朴
陳皮
甘草
人参
白朮
乾姜
半夏

当院で使用している安中散には茯苓が入ったタイプの物もありますが、一般に用いられている安中散には茯苓が入っていません。安中散は他の代表的胃薬漢方と重なる生薬はありません。平胃散を特徴付けているのは、蒼朮や厚朴だと言うのも表から見て取れます。人参湯は乾姜が入っていて、安中散の良姜と違う、つまり温める系の処方だと分かります。

簡単に表にまとめておきます。

簡単な使い分け

安中散 胃痛、腹痛があり、さらに胃酸が多い症状の時などに
六君子湯 胃腸の動きが悪くて、そのためお腹にぽちゃぽちゃと水が溜まり食欲のない場合
人参湯 お腹が冷えて痛い、胃が冷えて動き悪くて食欲がないなどの場合
平胃散 体が丈夫で胃もたれする人、食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸の具合が悪い人など

以上ざっくりと簡単に4つの胃の漢方処方について書いてみましたが、それぞれ作用が大きく異なるのがお分かり頂けたでしょうか。単純に胃の漢方薬といっても効果も作用も様々です。ですから例えば人参湯を飲んでみても効果を感じないということも起こり得ます。合ってない処方では「漢方は効くのに時間がかかるのかな」とか、「効かないのかな」と思ってしまいがちですが、状態に合う胃薬系の漢方は、比較的早く効果が出ます。しばらく服用してもあまり効果が体感出来なければ他の処方を試してみると良いでしょう。

漢方の胃薬は半夏瀉心湯や今回書いた4種類だけではありません。気を晴らす効果のある香附子を加えた香砂六君子湯、養胃湯から茯苓飲など多々存在します。また漢方処方の中には、人参湯や四君子湯など(六君子湯から陳皮と半夏がないもの)の生薬を含む処方は多々存在します。それは胃への負担を和らげるだけではなく、新しく胃薬を追加しなくとも、その処方だけで胃に関する症状を改善できると言うことです。

ここでは大雑把に説明しましたが、食欲不振や胃もたれ、胃の不快感などの症状の改善のため、もっともっときめ細やかに処方を組み立てることができます。胃を良い状態に保つことは、健康な毎日に欠かせません。お困りの方は、一度ご来院ください。

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この記事を書いた医師

院長【細野漢方診療所責任者】

細野 孝郎(ほその たかお)

漢方では、体を整えることで、病気を治したり、また病気になりにくい体作りをします。体のことでお悩みの方はもちろん、現在は健康だと思われている方も、ビタミンを摂るように、自分に合った漢方をみつけて、健康で楽しい人生を送りましょう。

昭和63年北里大学医学部卒 
日本東洋医学会認定医国際抗老化再生医療学会名誉認定医国際先進医療統合学会理事千代田区医師会所属

川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より聖光園細野診療所でも診療を開始。2021年12月法人(聖光園)から独立して細野漢方診療所として開設し診療を継続中。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、洗濯、料理、掃除、フルマラソン(サブフォー、ロンドン、シカゴ、ニューヨーク、ベルリン、フランクフルト、香港、東京、大阪、京都、神戸)など。