気剤とは読んで字の如く「気」を改善する方剤です。気と言うのは「生命活動を営む根源的なエネルギー」と定義できます。
気の産生と巡りをよくする
東洋医学的に気の関与する病態には「気虚」、「気鬱」、「気逆」などがあります。気虚の症状としては、体がだるい、気力がな い、疲れやすい・・・・などなどで、気(エネルギー)が足りない状態です。気(エネルギー)を補う処方を考えねばなりません。代表的な処方では補中益気湯、六君子湯、人参湯などがあります。「あれ?六君子湯や人参湯は胃の薬ではないの??」と思われる方もおられると思います。そうです、これらは胃の薬でもあります。漢方では胃(脾)が気を産生すると考えています。ですから胃(脾)の状態を改善せねば気は改善されません。ガソリン(エネルギー、気)がないと車は動きませんし、ガソリンタンク(胃)が壊れているとガソリン(気)を補充することも出来ません。
気は食物を消化・吸収することにより産生されます。胃の機能を整える、その結果食欲が増進することイコール気を補充することになるのです。補充された気は、くまなく全身を回らねばなりません。これが滞った状態を気鬱(気滞)と言います。症状としては、抑鬱傾向、頭重感、喉のつっかえ感、胸のつっかえ感、季肋部の重い感じ、腹部膨満感など・・・・気の滞る場所によりそれぞれ症状が異なるのです。これらを改善する代表的な方剤に柴胡疎肝湯、半夏厚朴湯、香蘇散などがあります。これらを使い分けて滞った気の流れを改善してやるのです。最後の気逆と言うのは気の流れの異常であり、気が逆に流れることです。症状的には冷えのぼせ、動悸発作、顔面を紅潮させての咳、焦燥感などです。代表的処方に蘇子降気湯、奔豚湯、加味逍遙散などがあります。
では実際にどの様に処方を組み立てるかを考えてみます。気虚だけ、または気鬱だけある状態は少なく、むしろ気虚 + 気鬱の合わさった状態が大半ではないかと思います。以前、「私の状態は漢方的にはどう言うのですか?」と聞かれたので、「気鬱だよ!」とあっさりと答えると異常に憤怒して「違います、おかしい!そんなはずはない!」と興奮された女性がいました。気鬱の「鬱」だけを取って「うつ病」とでも言われたと勘違いされたのか今もって不明ですが、その反省もあり、今では気鬱とは言わずに「これは気滞と言います。でね、ちょっとこの部分(例えば季肋部を指さして)で気の流れがブロックされてるんですよ。ここよくしてやればよくなりますよ。」と言う感じに説明します。つまり、気の産生が上手くいかない「気虚」と気の滞りがみられる「気滞」が合わさった状態の方が多いと言うことです。ならば治療は補気剤で気を補いながら、気滞を取り除く治療となります。代表的処方として、香砂六君子湯、参蘇飲、人参湯加三味などがあり、これらはいずれも補気 + 気の流れを改善する作用があります。私の場合はもう少し細かく考えます。気虚がメイン、気虚と気滞の程度が同程度、気滞がメイン・・・の3つには最低限分けることが出来るはずです。それぞれ一例をあげると気虚メインですと六君子湯に香附子少々、両者同程度ですと逍遙散に香附子、人参を単味で、気滞がメインになると逍遙散、香蘇散をメインに六君子湯などを少し加えてやる、と言う感じででしょうか。
現代社会ではストレスにより知らず知らずのうちに体が痛めつけられている場合が診ていてとても多く感じられます。気の巡りが悪くなると、いつかは血の巡りも悪くなることがあります。その場合は気剤 + 血の巡りの良くなる処方を出して行くのですが、ストレスに長時間体をさらしてよいことはありません。西洋医学的には「ちょっと疲れているだけですよ。」と言って薬を出して貰えなかったり、または安定剤や向精神薬を出されることもあるかも知れません。しかし、その様な種類の薬が必要ならばいざ知らず、多くの方は安定剤など服用せずに漢方で気の滞りを取ってやったり、気を補ってあげると体調は良くなるものです。
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