漢方治療での不妊治療は女性体質改善の基本的治療とほぼ同じだと考えます。「不妊治療」とは「妊娠できる体作り」つまり「女性の基本的な体質改善」です。不妊治療の処方は月経痛、月経不順、PMSや子宮筋腫、卵巣嚢腫などの女性系疾患、更には更年期障害で使う処方とほぼ同じです。子宮卵巣系の血流を良くする、いわゆる瘀血(おけつ)の治療が基本となります。
まず、今回は不妊治療について説明していきます。
不妊治療について
当院には不妊治療を希望されて来院される方が多くおられます、また幸いなことに毎年多くの方から妊娠報告を頂いています。さらには不妊治療で訪れた方が、その後何年かして更年期障害などで再び来院されるなど、不妊に限らず女性の方を数多く診察させて頂いております。妊娠できる体とは、「整ったバランスの良い体」、言い換えれば「体内で赤ちゃんを育てる余裕のある体」です。この余裕ある体作りこそ、不妊治療だけでなく全ての女性の体質改善の根幹となるのです。
不妊治療で来院される方の傾向
不妊治療で東京診療所を訪れる方で、自然妊娠を希望される方はだいたい30〜35歳前後です。今現在体外受精をされている、またはこれから希望される方は35〜40歳前後が中心となります。いつもおおよその目安として、妊娠までの期間をお話しするのですが、自然妊娠には2つのピークがあります。一つ目のピークは3ヶ月程度です。
意外に思われるかも知れませんが、少し漢方で刺激を与えてあげると、3ヶ月程度で妊娠される方がぽつぽつおられます。元々ある程度のレベル(自然妊娠に近い所)に体があり、ほんの少し血液の流れが改善したため妊娠に至ったのではないでしょうか。次のピークはおおよそ1〜2年の間です。
私の父親に習った頃は「妊娠するまでは3年は我慢」などと教わりましたが、現代は妊活開始年齢が遅い上に、自然妊娠に無駄に時間をかけるよりは体外受精などにステップアップした方が良いとの考えで、3年も我慢して下さる方はほぼ皆無です。それは当院の患者様も同様で、1年過ぎた頃より体外受精にステップアップされる方が大半です。
体外受精の場合の目安は、だいたい半年から1年程度になります。1年程度頑張って治療を続けて頂いた方の半分程度が妊娠される感じです。但し1年を超えると40歳以上の方は諦めてしまう場合も多いのですが、これは妊娠できる確率から考えてもいたしかたないかと思います。
体外受精の治療をしばらくの期間休んで、その間に漢方で体調を整えてから再度体外に挑戦したいと言う方もおられます。中には体外受精お休み中に漢方を始めて、自然妊娠した方もおられます。通常、自然妊娠をしないので体外受精にステップアップし、さらに何度か体外受精を繰り返して妊娠できなかった人が自然妊娠するなどとは考えられないかと思います。しかしそういうことも起こってしまうのが漢方治療の不思議の一つでしょうか。
ちなみに自然妊娠の過去最高齢は43歳、体外受精の妊娠最高齢が47歳でした。このようなこともありますので、早々に諦めるのではなく、まずは1年間漢方をやってみるのも良いことだと思っています。
もちろん漢方を服用しても何も体感しない、実感しないと言うのであれば治療途中で諦めも入ってしまいがちです。しかし月経のたびに体調の変化を実感できれば希望も見えてくるかと思います。女性系の漢方薬(不妊治療に使用するものも含めて)は、比較的早い時期に効果を体感できる処方が多いのも特徴と言えるでしょう。
不妊治療の方向性
時々質問されるのですが、「今は自然妊娠を希望しているのですが、途中から体外受精にステップアップすると今までの治療は無駄になりますか?」と言うことです。治療が無駄になることはありません。自然妊娠も体外受精も漢方治療の導入はまったく同じで、体のバランスを整える治療(例えば気血水の流れを整える)から入りますので最初は同じ様な治療(処方)から開始します。ただ体外受精の場合は、採卵、杯移植などの人工的手技が行われますので、場合によってはそれぞれの手技に併せて細かく処方を変更していきます。
もちろん漢方治療でも何であれ、1年間続けるのは大変なことです。ただし、先にも書きましたが体調の変化や治療の効果を体感できれば、それが励みとなり続けることはそれほど大変ではないでしょう。治療の基本は「女性生殖器系の血の流れを良くする」ことにつきます。これを良くするために、体の気(エネルギー)の流れを整えたり、冷えの原因となる過剰水分の排出を促進(いわゆる水毒の解消)したりするのです。
血の流れを良くする治療は、いわゆる「瘀血の治療」ですが、それは全ての女性疾患・体質改善の治療の根幹になります。そしてこの治療は月経がある方ならば、かなりの確率で、月経時に体調の変化を体感できる治療となります。これらの治療に使う処方は大きく二つのグループに分けることができます。但し、実際にはそのグループ間の処方も多数存在します。いわゆる強いクスリ(実証に使う)と弱いクスリ(虚証に使う)のグループです。更にはその両者を1:1で混ぜたような物もあれば、0.5:1で混ぜたようなものもあります。例えばレベル1からレベル100の間に多くの段階が存在して、その中でその方に最適なレベルを選択するみたいな感じです。しかし保険漢方ではそこまで細かくは選択できませんが、当院ではどの様なレベルの患者様にも最適な処方が選択可能です。
患者様には「北風と太陽」の寓話を例に説明します。旅人のマントを脱がしたい時に強風で吹き飛ばすか、それともぽかぽかと暖めて自発的に脱がすかの話です。これを治療に当てはめると、強い力で血の流れを改善する(いわゆる強いクスリ、便秘のある人に使いやすい)か、それとも体内を温める(いわゆる優しいクスリ、体の弱く冷えている人に使いやすい)ことにより血の流れを改善するかの違い、とお話しします。
寓話の中では北風はマントを脱がすのに失敗しました。しかし現実には北風が必要な場合もあります。実際の治療では強いクスリも、量を調整すればほど良い効果が得られます。教科書通り患者様の体質・タイプに固執して処方を選んでしまうと良い結果が得られないこともあります。もちろんあまりにも独創的な治療も良い結果が得にくいでしょう。通り一辺倒な治療では妊娠できる体作りには至りませんので、一緒に考えて処方を組み立てて行ければと思います。
自然妊娠ご希望の方や体外受精で治療中の方、漢方治療をお試しください。いつでも細野漢方診療所へご相談にお越しください。