妊娠中の胎児・母体の体調管理

不妊治療に漢方を取り入れて、その結果めでたく妊娠された場合、多くの方が妊娠継続の漢方を希望されます。

母体と赤ちゃんを守る、安産の妙薬

代表的な処方は、やはり当帰芍薬散とうきしゃくやくさんです。当帰芍薬散は安産の薬、または流産予防の妙薬として、広く知られています。妊娠中に服用すると妊娠高血圧症候群などの予防になります。さらには服用を続けると分娩も軽く、元気な赤ちゃんが生まれ、生後の発育も不思議なことに良いのです。
当帰芍薬散は6種類の生薬から構成されています。3種の生薬(当帰、芍薬、川芎)が優しく血液の流れや血液の質を良くしてくれます。さらに、その蒼朮、茯苓、沢瀉が水分代謝を改善します。生薬構成から考えると、当帰芍薬散は女性の代表的処方である四物湯しもつとうと水毒の基本処方である五苓散ごれいさんを合わせた物です。妊娠後期になると体の水分量が増加し浮腫みが出やすくなりますが、当帰芍薬散はこれらの症状にも有効なのです。
また、金匱要略きんきようりゃくと言う漢方の古典書に「妊娠している婦人が、お腹のしぼるような痛みを訴えるとき、当帰芍薬散の主治である」と記載されています。
昔から、「当帰芍薬散は安産のクスリ」と考えられてきました。
妊娠中の出血には、芎帰膠艾湯きゅうききょうがいとうをよく用います。これも6種類の生薬から構成されています。当帰芍薬散と同じく四物湯が基本となります。その中に含まれる艾葉がいようと言う生薬はヨモギの葉を乾燥したもので、止血作用があります。含まれる阿膠あきょうにも出血を止め、粘膜の傷を治す作用があります。

女性向けの基本処方、四物湯しもつとう

芎帰膠艾湯の構成生薬を見ると、

芎帰膠艾湯 = 四物湯しもつとう + 阿膠あきょう + 艾葉がいよう + 甘草かんぞう

となります。
先ほどの当帰芍薬散は

当帰芍薬散 = 四物湯しもつとう + 五苓散ごれいさん -(地黄、桂皮、猪苓)

となります。
この両者で四物湯と言う処方名が重複していることがお分かり頂けるでしょう。四物湯は、その名の通り4種類の生薬から構成される処方で、女性系の漢方の基本となる処方です。作用は比較的穏やかで、血の質を良くしてくれます。
四物湯は、当帰とうき芍薬しゃくやく川芎せんきゅう地黄じおうから構成されます。
女性の方に使用する漢方薬の多くに、四物湯の構成生薬が入っています。これは妊娠に限ったことではなく、女性の体調管理・維持、月経に関するトラブルから、またはカサカサタイプの皮膚疾患やアトピー性皮膚炎にまで使用する処方です。血の質を良くすることで肌に潤いを持たせるのです。
さらに産後や流産後の代表的な漢方処方、芎帰調血飲きゅうきちょうけついんも四物湯が基本となります。産後や流産後には強い処方は使いにくいので、作用の穏やかな処方を選びたいものです。芎帰調血飲は四物湯を基本に産後や流産後の落ち込んだ気分を改善する気剤きざいや子宮を収縮させる(おそらく子宮を収縮させ中に残った物を出す)益母草やくもそうなどが加えられています。妊娠中は当帰芍薬散、産後は芎帰調血飲と言うのが基本的な処方になるでしょう。

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この記事を書いた医師

院長【細野漢方診療所責任者】

細野 孝郎(ほその たかお)

漢方では、体を整えることで、病気を治したり、また病気になりにくい体作りをします。体のことでお悩みの方はもちろん、現在は健康だと思われている方も、ビタミンを摂るように、自分に合った漢方をみつけて、健康で楽しい人生を送りましょう。

昭和63年北里大学医学部卒 
日本東洋医学会認定医国際抗老化再生医療学会名誉認定医国際先進医療統合学会理事千代田区医師会所属

川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より聖光園細野診療所でも診療を開始。2021年12月法人(聖光園)から独立して細野漢方診療所として開設し診療を継続中。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、洗濯、料理、掃除、フルマラソン(サブフォー、ロンドン、シカゴ、ニューヨーク、ベルリン、フランクフルト、香港、東京、大阪、京都、神戸)など。