当院に不妊症で通院されている方の半数近くが体外受精も同時にされています。漢方治療は昔ながらのやり方があるので、体外受精をやりたいのならばそれはそれでどうぞ、と言う考えではいけないと思います。私は漢方治療も体外受精のスケジュールに併せて方針を組み治療を行えば、最善の結果が得られると考えます。
治療の目安・期間
過去の経験から、今まで体外受精に失敗を繰り返していた方が、漢方治療を開始して体外受精で妊娠に至ったのは、だいたい半年から2年の間になります。もちろん漢方を服用してから1〜2ヶ月で妊娠された方もおられますが、それは漢方の効果と言うよりも偶然ではないかと思っています。中には長い方で3年、4年と要した方もおられますが、経過に連れて年齢も重ねることになるので、妊娠するのは早いに越したことはありません。
体外受精に併せて漢方治療をお考えの方には、最初に次のようにお話し致します。
「漢方治療を開始してから体外受精で妊娠するまで早くて半年。1年を経過すると成功率はさらに上がります。逆に2年、3年を超えると少し厳しいかもしれません。ですから1〜2年の間が勝負です。」
もし時間的、年齢的に少し余裕があるのならば、半年程度は体外受精をお休みされても良いかと思います。
ただ2年経過して成功しなくとも、着々と身体の状態が改善している方も多いのです。40歳を過ぎて今まで採卵すら出来なかった方が、漢方を始めてから採卵出来るようになったり、受精しなかった方が胚盤胞まで成功するようになったり、妊娠には至らなくとも確実に前進されている場合は、まだあきらめることはありません。
初診でお見えになった方には、今後どの様に予定を考えておられるかをお伺いします。この先に体外受精を考えておられる方は、当面は自然妊娠を目指しておられる方と同じ様な方向性で治療して行きます。体外受精を開始する前になんとか自然妊娠に至って欲しいと思いますし、実際に体外を覚悟されていたのに自然妊娠された方も多数いらっしゃいます。
体外受精に合わせた漢方治療
一方、現在体外受精を継続しつつ初診でお見えになった場合は、自然妊娠と治療方針は若干異なります。採卵日、移植日、判定日などの予定をお伺いして、場合によってはそれに合わせた漢方処方を組み立てて行きます。
一つの例では、採卵日までは主に性腺機能を増強する様な処方を使います。排卵湯(はいらんとう)などはこの時期に良く使う処方の一つです。
次いで、移植の前日より移植後4日目頃までは子宮の収縮を抑える様な生薬を含んだ処方を使います。子宮の収縮などの、着床の妨げになる因子を取り除くためです。同様の手法で体外受精の成功率が10%上昇したとの論文報告も過去にはありました。
移植後5日目頃よりは、妊娠したと仮定して当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などのいわゆる安胎薬を用いて判定日を待ちます。
もちろん全ての方にこの様な方法で治療するわけではありません。採卵や分割に問題ない方は普段その方が飲んでおられる処方で移植前まで経過を診ることもあります。
うまくいかない段階に合わせた漢方治療
体外受精と言っても、いろいろな段階があります。採卵に問題があるのか、分割しないのか、それとも着床に問題があるのか、などにより漢方治療の方法も変わって来くるのは当然でしょう。
1983年に日本で最初の体外受精が成功しました。これは漢方の誕生した時代には想像もされていなかった手法でしょう。従来の漢方治療の方法に少し変化を与えてあげると、更に良い結果が伴ってくるものと思います。
不妊症、体外受精に合わせた漢方処方とは言っても、基本的には体のバランスを整える処方が基本になります。気の流れを整え、血の流れを整える。自然妊娠や婦人科系疾患などの漢方治療と同じく、子宮・卵巣系の血流を整えることにより、低下した卵巣の働きを元ある状態、あるいはそれ以上に保ち、子宮内環境を整えます。それが自然、人工妊娠、体外受精などに関わらず不妊治療の根幹になります。そしてそれでも上手く行かなければ、従来の漢方の手法のみならず、体外受精と言う昔にはなかった人為的な手技を行うことを考え、少し違った観点からも処方を組み立てることも必要かと思います。