月経付随症状と漢方治療

月経異常などを伴う女性の体調管理に周期療法を用いる

月経不順、月経痛、月経前症候群などを主訴として当院にお見えになる患者様は数多くおられます。中には婦人科に通いながら漢方治療も併せて、とのことでお見えになる方もおられます。もちろん、漢方治療も併用して頂いて何の問題もございません。
漢方での月経困難症の治療の基本は「血」の流れの改善です。
「血」の流れが滞る(いわゆる”おけつ”です)ために月経困難症などをはじめとして、種々の女性疾患が起こってきます。月経痛の酷い方は、生理の時には会社を3〜4日休み、さらに生理のことを考えると憂鬱で鬱状態になる方もおられます。
通常の月経異常ですと桂枝茯苓丸や当帰芍薬散で「血」の巡りを良くすれば、たいていの方で改善を認めます。婦人科等で漢方を出されている方の大半がこの2処方ではないでしょうか?私も大学病院の漢方外来で、半年間無月経の若い患者さんに、前記2処方を混ぜた物を中心として処方し、生理が来たと感謝されました。
しかし中にはこの2処方やさらには温経湯、桃核承気湯、加味逍遙散・・・・ありとあらゆる保険処方を使っても改善しない例は多くあり、実際に多くの方々が苦しんでおられます。

プチ周期療法

実際に困難な月経困難症の治療には私自身も苦労していました。そこで周期療法からヒントを得て、プチ周期療法とでも呼びましょうか、月経困難症に周期療法を応用してみました。この治療も患者様のタイプや症状により処方内容が全く異なるので、誰もが同じとはいきませんが、以下に組み合わせの一部を御紹介しましょう。

月経期 主に血の流れを良くする処方 主に気の流れを良くする処方
牛膝散、桂枝茯苓丸、折衝飲、桃核承気湯など 逍遙散、加味逍遙散、正気天香湯、香附子、香砂養胃湯など
月経以外の
期間
主に血の流れを良くする処方 主に気の流れを良くする処方
牛膝散、桂枝茯苓丸、折衝飲、桃核承気湯など 逍遙散、加味逍遙散など

これは、元来会社に行けないほどの鬱状態があり、さらに加えて極度の月経痛で悩んでおられた方に処方した内容の一部です。もちろん全部を同時に使ったわけではありません。
最初は月経期に(折衝飲 + 逍遙散 + 香附子)、それ以外の時期には(逍遙散 + 四物湯 + 香附子)で様子をみていました。基本に鬱状態があったため、通常の場合よりも気剤(気の流れを改善する処方)を多めに使いました。
逍遙散は保険でよく用いられている加味逍遙散ではありません。逍遙散 + 牡丹皮 + 山梔子=加味逍遙散なのですが、この牡丹皮、山梔子がない方が使う側に取っては好都合なのです。この二つの処方の違いは・・・・そうですね、かけソバと、海老天と野菜天が載っかったソバの違い、ほどでしょうか。前者はそこから上に載せる物によってサッパリと食べられたり、天麩羅系を載せてしっかりと食べれられたり、その日の体調(腹具合?懐具合??)に合わせられるのですが、後者はサッパリ食べることは無理で、体調がよくなければ胃もたれしそうです。
例えが貧相で申し訳ないですが、なんとなく感じは分かって頂けるでしょうか?
さて逍遙散は基本的には柴胡剤であり、さらに作用の穏やかな気剤でもあります。私は逍遙散を軽度の気鬱が基本にあり、診察上軽度の胸協苦満(右季肋部に抵抗・圧痛が認められること)が認められる場合によく使います。またここから話が少しややっこしくなりますが、「肝」という古代解剖学的知識に基づき定められた器官があります。これはいわゆる我々の言う肝臓(liver)ではありません。
漢方でいう肝とは、情緒活動に関連する中枢神経系などの一部や、月経調節などを含めた機能系のことです。
察しの良い方はもうお分かりでしょう。この「肝」がダメージを受けていれば、どうも気分がすぐれないし、月経困難症もある・・・・と言う状況に陥りやすいのです。
そこで、必要なのが優しく「肝」の状態を良くして「気」の巡りを改善してくれる逍遙散のような処方です。そして気の巡りが改善されれば「血」の巡りも良くなってきます。つまり鬱状態があるなしに係わらず、頑固な月経随伴症状に気剤をほんの少しスパイスとして用いれば、思いの外改善を見るものです。血の巡りを良くする作用は逍遙散だけでは弱いので、血の流れを良くする処方を併せて使って行きます。
現在、この方は月経期に(牛膝散 + 香附子)、それ以外の時期には(桂枝茯苓丸合逍遙散 + 香附子)で3〜4日続いた酷い月経痛も1日程度でおさまるまで改善して来ました。完全に治る・・・とまでは未だいたりませんが、気剤をしばらく使っていたおかげで気分の方も改善され、さらに月経痛も改善されてきたため今では元気に会社に行っておられます。
月経困難症や生理痛など、従来の方法で処方して治らない、いまひとつスッキリしない方は是非ともこのプチ周期療法をお試し下さい。

(ポイント) → プチ周期療法に加えて、血の流れを改善する処方に少しの気剤を加えることです。

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この記事を書いた医師

院長【細野漢方診療所責任者】

細野 孝郎(ほその たかお)

漢方では、体を整えることで、病気を治したり、また病気になりにくい体作りをします。体のことでお悩みの方はもちろん、現在は健康だと思われている方も、ビタミンを摂るように、自分に合った漢方をみつけて、健康で楽しい人生を送りましょう。

昭和63年北里大学医学部卒 
日本東洋医学会認定医国際抗老化再生医療学会名誉認定医国際先進医療統合学会理事千代田区医師会所属

川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より聖光園細野診療所でも診療を開始。2021年12月法人(聖光園)から独立して細野漢方診療所として開設し診療を継続中。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、洗濯、料理、掃除、フルマラソン(サブフォー、ロンドン、シカゴ、ニューヨーク、ベルリン、フランクフルト、香港、東京、大阪、京都、神戸)など。