二度の体外受精が成功せず、漢方での体質改善を希望されてご来院。一年間の漢方治療により、体外受精で妊娠された一例
(33歳 女性)
経過
2年以上自然妊娠せず、半年程前よりKクリニックにて体外受精中。胚移植を2回行うも結果は初期流産ともう一度は着床せずに2013年4月に当院を初診。月経痛ありロキソニンを月経初日〜2日めにかけて服用。月経前症候群の症状あり。月経はやや不順。排卵痛、性交痛、便秘等はなし
来院時所見
初診時は月経周期30日。腹診で強い瘀血の所見あり。基礎体温表は2層性に分かれていて、高温期の形もしっかりとできている。手足に少々の冷えの自覚あり。また全体的に浮腫みやすいとのこと。
治療経過
初診時4月9日:月経周期30日
初診時の腹診では右下腹部に強い張り、抵抗がありました。月経直前ではよくあることです。しかし2度も移植に失敗していますし、また直ぐにでも移植したいと言う御本人の希望もあり、本来ならば最初に強めの駆瘀血剤を処方するケースです。しかし会社勤めということもあり、副作用の下痢が出ると困るため御本人に相談の上、比較的中等度の駆瘀血剤である桂枝茯苓丸をベースに処方を組み立ててみました。痛み止めを服用するような月経痛があるために、延胡索、木香、厚朴などの生薬を加えました。
2回目の診察4月23日:月経周期14日
周期12日目に採卵を終えられて、次周期にも移植をしたいとのことでした。腹診所見では依然と右下腹部の張りが強く、もう少し漢方を強くしても良いのではと思いました。ただ次周期に移植を考えておられるために、あまり強くするのも良くありません。桃核承気湯加減という桃核承気湯をベースに副作用である下痢が出にくく改良した当院のオリジナル漢方処方を今回はベースとしました。さらには次周期の移植を考えて四物湯を加えてみました。また月経痛の対策も兼ねて前回同様に 延胡索、木香、厚朴などの生薬を加えました。
3回目の診察5月14日:月経周期9日
風疹のワクチンを打ったため、移植の予定が延期になりました。処方は前回と同じとしました。
5回目の診察6月18日:月経周期18日
月経前症候群が軽くなり、同時に月経痛も軽減してきました。腹診では右下腹部の圧痛・抵抗も軽くなってきました。この時より不妊の鍼灸治療も併せて開始しました。
8回目の診察8月5日:月経周期8日
月経前症候群の症状はほぼなくなり、月経痛もほぼ消失。前周期には採卵をして胚盤凍結となり次周期に移植予定となりました。そのために体外受精のスケジュールに合わせた漢方処方に切り替えることにしました。
9月9日に移植後判定で陽性となり、妊娠が判明、漢方処方は当帰芍薬散に変更しました。しかし妊娠9週で流産されてしまいました。その後、しばらく漢方も休薬されていたのですが、2014年に入り再開することになりました。
9回目の診察1月31日:月経周期7日
腹診所見上は瘀血の所見もなくとても良い感じでした。処方は以前の桃核承気湯加減、四物湯、延胡索、木香、厚朴と同じ組み合わせなのですが、構成比率を少し変えました。と言うのも、現在の体の状態では桃核承気湯加減のような強めの処方は少なめでも良さそうであるからです。ならば基本処方から変更してもよいのですが、一度は同処方で妊娠されていますので、大きな変更をしたくなかったからです。御本人もこの処方が気に入っておられるみたいで、しばらくは同処方で行きたいとのことで、今後のしばらくは処方のみの御来院を御希望されましたので同処方を続けることとなりました。
結果として、5月に体外受精で妊娠されました。前回同様に今回も体外受精時には体外受精のスケジュールに合わせて処方を変更し、妊娠判明後には当帰芍薬散に変更しました。
まとめ
この様に不妊症の漢方治療では、最初に基本処方を決定し、それを基に生薬を単独で加えたり、また不必要な生薬を削ったりして体に合わせてその方のオリジナル処方を作っていきます。体に合えばこの方の様に月経前症候群や月経痛(生理痛)などの諸症状が緩和されていきます。体に合った処方が完成すればしばらくは同じ処方を続けますので、遠方の方は1〜3ヶ月に1度程度の御来院でも大丈夫です。近場の方ならば1ヶ月に一度程度の通院がお勧めになります。
また体外受精を行う時には、この方のように、体外受精のスケジュールに合わせて漢方処方を変更していきます。