当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は多くの人が名前は聞いたことがあるメジャー処方です。そのため当院ページに当帰芍薬散で検索してたどり着いた方も多くおられます。過去に何度か当帰芍薬散に関して書いていますので、まずはそれをご参照下さい。ブログの記事より抜粋し基本編、と過去記事一覧のリンクを以下に示しておきます。今回は今までにあまり書いていない部分で、妊娠時の漢方処方を当帰芍薬散を中心に書いてみます。
当帰芍薬散は金匱要略(きんきようりゃく)と言う3世紀(!?)に書かれた医学書に記載されているます。簡単に言うと「妊娠中の女性が、お腹の絞るような痛みを訴える時」また「女性(妊娠中に限らず)がお腹の急な痛みを訴える時」に用いると書かれています。以前の記事にも当帰芍薬散は四物湯と五苓散の合方であることからも、いろいろと効果効能を書いていますが、基本的には月経痛や女性系器官の痛み、妊娠中の下腹部の痛みなどが使用目標となります。妊婦さんにも用いる優しい処方なので、むしろ効かない場合があるかも知れませんが、副作用が出ることははぼない安全な処方です。当帰芍薬散についての詳しいことは過去記事を参考にして下さい。サクッと一言で纏めると、お腹が痛い時に飲めば良い女性系漢方!です。
漢方的には当帰芍薬散は安胎薬と言われて、妊婦さんの血液の質を良くして、水分代謝を保ち、子宮を穏やかに保つことで、母体と赤ちゃんを守ってくれます。今では更に妊娠高血圧症候群にも効果があると数多くの研究結果が発表されています。当院では以前から基本的には妊娠高血圧症候群の予防として、妊娠が判明した時から服用することをお勧めしていました。先代、先先代の頃はあまり細かい説明をせずにお勧めしていたと思いますが、今はこの様なことを色々と説明させて頂いて、「一回試してみて自分で何となく良さそうだと思えば続けてみたら?」と言う軽い感じのお勧め方法です。とは言え、いきなり初診で妊婦さんがお見えになるのは稀で(風邪ひいたから漢方の風邪薬が欲しいくらい)、当院で不妊治療の末に妊娠された方々なので、「なんか飲んだ方がイイぞ」と、安定期や出産までなど期間は人それぞれですが、継続される方が多い印象です。
さらに妊娠中には色々なトラブルが起こります。他に良くあるのが出血です。出血した時には当帰芍薬散ではなく、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)と言う処方を用います。
芎帰膠艾湯は当帰、芍薬、川芎、地黄、艾葉(がいよう)、阿膠(あきょう)甘草の7種類の生薬から構成されます。過去の記事を読んできた方は、「あ!これは四物湯ベースだ」と思われたでしょう。そうです、四物湯に艾葉、これはヨモギの葉っぱを乾燥した物ですが、と阿膠、甘草が入っただけです。甘草は味付けと言うか、調整剤的な物だと思って下さい。肝心なのは艾葉と阿膠、これらは共に止血効果がある生薬です。以上より、女性の基本処方(四物湯)に止血効果のある生薬を2つ加えた処方が帰膠艾湯です。もちろんこれは妊娠中の出血だけではなく、子宮筋腫や内膜症などによる不正出血にも良く使いますし、またあまり考えたくはないのですが、流産後の出血の時にも使う処方になります。
ちょっと話が戻りますが、妊娠高血圧症候群の時には、当帰芍薬散以外では一般には柴苓湯(さいれいとう)などを使うのでしょうが、当院ではもう少し細かく、柴苓湯から泌尿器系に刺激のある生薬を抜いた、小柴胡湯加腎加減と言う処方をベースに五苓散などを加えて組んで行きます。
色々な過去記事合わせて、以上までが当帰芍薬散の基本編になります。
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処方解説:当帰芍薬散、基本編
当帰芍薬散に関しての記事一覧
細野漢方診療所 細野孝郎