• 内科医師からスタートし、現在は三代続いている漢方専門のクリニックを銀座で開業中。女性系疾患(月経関連、更年期、 不妊症など)、アトピー性皮膚炎などから、ちょこっと体の弱い人までお見えになります。趣味はマラソン(基本的にはインドアでテレビ派)、猫(アメショ)、週に1回の外食。マラソンはsix stars finisher(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨーク)日本人では338人目位の達成!!

前回の続きになります。今回は前回よりも少し踏み込んで、加味逍遙散の構成を詳しく考えてみます。少しややっこしいので今回の内容は知らなくても全く問題ありませんので、ご興味なければ読み飛ばして下さい。ただ処方する側としては構成生薬まで踏み込んで知っておく必要はありますし、またこれくらい知っていると、自信を持って加味逍遙散をチョイスできると思います。

加味逍遙散≒当帰芍薬散+小柴胡湯

逍遙散当帰芍薬散小柴胡湯
柴胡(1.7g)
芍薬(3.0g)
茯苓(4.3g)
当帰(3.0g)
薄荷(0.8g)
白朮(2.0g)
生姜(0.8g)
4/6の生薬2/7の生薬、40%程度 

生薬は全て均等量ではなく、括弧内に記載しましたが、それぞれ基準の量が決められています。これがいわゆる吊るしの状態で、そこに必要に応じて生薬を加減したり、また新たな生薬を加えたりしてその方の状態に合わせて作って行くのが漢方です。

逍遙散は小柴胡湯よりも優しい処方(虚証向け)

さて加味逍遙散は上記の逍遙散に牡丹皮、山梔子を加えた処方になるので、まずは基本の逍遙散について見ていきます。逍遙散は表にある様に柴胡、芍薬、茯苓、当帰、薄荷、白朮、生姜の7種の生薬より構成されています。これを眺めた時に、当帰、芍薬の組み合わせがまずは目に入り、次に白朮、茯苓のに気付いた方は多いかと思います。まさしく当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、白朮、茯苓、沢瀉)の構成生薬の内の4種類が含まれています。しかもそれらの占める割合(量)は逍遙散中のほぼ80%です。つまり逍遙散の中には当帰芍薬散の主たる構成生薬が8割入っていると考えられます。

小柴胡湯は柴胡、黄芩、節参、半夏、生姜、大棗、甘草から構成されますが、その生薬比率で見ると柴胡、生姜が9.0/21.8(当院基準)とおおよそ半分を占めています。逍遙散では黄芩や半夏など比較的薬効が鋭く、人参、大棗は小柴胡湯の証で咳の酷い時には用いにくい生薬が取り除かれています。以上のことより逍遙散を用いるのは、小柴胡湯が適応になる人よりも体質が弱い人(虚証)に適応になることが分かります。

逍遙散+牡丹皮+山梔子=加味逍遙散

そして、この逍遙散に牡丹皮と山梔子を加味した処方が加味逍遙散になります。牡丹皮と山梔子には虚火を治す作用があります。虚火(虚熱)とは、陰陽のバランスが崩れることにより熱が篭った症状を呈した状態です。中医学的な考えで馴染みがなく理解が難しいと思います。私の父の細野八郎はかつて患者さんに説明するのに、「体がくたびれてしまったので、本来体内で抑えられていた(水がなくなり)火が抑えられなくなった状態」と説明していました。言い換えれば体内には種火が常についているのが、旧態化したシステムの異常のため消火できずに、それが火事を起こした状態と言えるでしょう。症状としては、ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、目眩、耳鳴り、腹部動悸などとなります。

加味逍遙散の適応

以上より、加味逍遙散の適応をまとめると

1)比較的体の弱い人(小柴胡湯>(加味)逍遙散)
2)当帰芍薬散(四物湯系)が適応になりそうな人
3)自律神経系が少し乱れている人
4)ほてり、のぼせ、目眩、耳鳴りなど虚火症状がある人

以上の4つが揃えば、いわゆる加味逍遙散の証です。何を選ぶか迷った時の選択肢に加味逍遙散も入れてみて下さい。

さて、東京では三寒四温が続いて先週末は既に春の日差しでした。ランニングを定期的に続けているので気温や花粉には異様に敏感です。さすがに朝にはくしゃみと鼻水が出ますが、一応この程度で治っています。暦で3月に入ると春、雛祭りを過ぎると春、目が痒くなると春・・・・・と春が来たと実感するイベントは人それぞれあると思います。自分の場合は、大学生の頃は最終試験が終わると春です。いわゆる追試です(笑)追試など全て終わるのが大体3月初旬で、それが終わってホッとすると不思議なもので、いきなり暖かく感じたものでした。その後(医師になった後)しばらくは、桜の開花で春を感じていました。だから学生の頃よりもかなり後になって春を感じたものです。そしてここ10年程、春を感じるのは東京マラソンです。ここ最近は3月第一週の開催で、これが終わるといきなり暖かく春の到来を感じてしまいます。

                                               

写真は最近のトレーニング状況です。年を取って以前ほど速く走れなくなりましたが、それでもゆっくりと走って体調を整え、何とかフルマラソンを完走(少し歩くか?)できる体になりつつあります。心肺機能も年齢と伴に低下しますが、それ以上に体の柔軟性の低下が問題です。関節や筋肉の硬さが怪我に直結し、また体が硬いと長い距離を走るとあちこちに痛みが出てフルマラソンなど後半はどうにもなりません。時間あればストレッチを心がけていますが、テレビ見ながらやり過ぎて逆に痛めたりで困ったものです。

アイキャッチ画像はランニング中に立ち寄った公園です。近所の方が周囲をウォーキングしたり、また犬の散歩をさせたりでのどかな雰囲気です。普段運動しない方も、これから暖かくなるとウォーキングなど気分良くできるかと思います。外へ出てウォーキングなどで気を回して自律神経を整えてあげるのも、この春の時期にはとても大切なことです。スマホなどで距離や歩数が測れるので、何キロ歩けた!!など正確に知ることが出来て、それが達成感となり、さらに気(エネルギー)が回って胃腸の動きが良くなったり、頭がスッキリしたりするでしょう。
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