前々回より実際の例をあげて解説していますが、意外とこれが好評でした。そこで今回からは女性系漢方を実際にどう考えて何をどんな感じで処方しているかについて簡単に書いていきます。今回は不妊症の方の症例を2つです。各処方について細かい説明はここでは致しません、過去記事で書いていますのでリンクやタグより辿ってそちらをご参照下さい。
お一人目は40代の女性の方(一応性別も・・・・・)で二人目をご希望されています。一人目の時も体外受精・移植でもなかなか妊娠せずに当院で漢方を処方していました。その当時に処方したのが、当帰芍薬散合甘草乾姜湯です。当時は激しい月経痛、太腿、臀部、腰腹部の冷えがあり、さらに月経前に浮腫みが酷い(体重が1.5キロほど増加する)状態でした。腹診初見で瘀血が強いため、途中で牡丹皮桃仁を少量追加、それにより便通が良くなり月経痛も軽くなって来ました。3ヶ月程経過して、なかなか良い質の卵子が取れないと言うことでした。本来ならば最低でも半年はこの処方のまま頑張りたかったのですが、年齢等を考えて漢方もステップアップしてみました。ともかく卵の質を上げたいと思い、ここで選んだのが排卵湯です。ただ少量とはいえ、牡丹皮桃仁を加えて体調は良くなっているのでこれは外せません、排卵湯に牡丹皮桃仁を加えて様子を見ます。しかしその後の月経痛が酷かったため少し考えました。本当はもう一回月経を超えるまで見て欲しかったのですが、こう言う場合はほんのちょっとでも変えた方が上手く行くことを何度も経験しています。そこで牡丹皮桃仁の代わりに大黄牡丹皮湯1/2量(全量使ってはダメです)としてみました。月経痛も軽くなったので、排卵湯と1/2量の大黄牡丹皮湯でしばらく様子を見ることにしました。排卵湯ベースにしてから3ヶ月、無事に3個の凍結胚を確保できました。そこで次は移植に備えて処方変更です。私は移植の前にはひたすら四物湯類で内膜を厚くする派です。ただこの方の場合は大黄牡丹皮湯で調子が良いので、これは引き続き使った方が良いでしょう。そこで大黄牡丹皮湯1/2量に四物湯を2/3量加えた処方にしてみました。漢方を良く分かっている方には、そんな変な処方にしなくとも・・・・・と言うのがあるかも知れませんが、これは瘀血や便秘の程度に合わせて、大黄牡丹皮湯の量で薬の強弱を細かく調整できるので、服用する側にとっても良い処方だと思っています。なんだかんだでそこから2ヶ月後に移植して無事着床です。移植直後には大黄牡丹皮湯のような動かす系の処方はあまり好ましくありません。そこで移植後は妊婦さんの基本処方である当帰芍薬散に変更です。その後、胎嚢確認、心拍確認と無事に進んで、この方は23週頃まで当帰芍薬散を服用されていました。基本、当帰芍薬散は妊婦さんの処方とも言われているので出産まで(もちろん出産後)服用して頂いた方が良いのですが、まぁそこは自分の感覚優先で判断して頂いています。
で、その方が3年ぶりに来院されて、二人目妊娠をご希望とのことでした。何度か体外受精・移植を繰り返しても上手く行かず(凍結卵ができない)に、そう言えば1回目の時には漢方をやっていた!と思い出したそうです。もう最初から思い出して欲しいのですが(笑)腹診すると、一人目妊娠の前の状態と少し異なり瘀血もそこまで強くない印象でした。一回妊娠すると瘀血が改善されたりするものです。縁起も良いし験担ぎもあり、初回妊娠した時と同じ処方を選択したくなるのですが、ここは自分の腹診所見を信じて、当帰芍薬散合甘草乾姜湯のみ、牡丹皮桃仁や大黄牡丹皮湯などの強い処方を使わずに治療再開です。その後無事に凍結卵ができて今現在は同処方を継続して移植に備え体調を整えています。
東京より遥か南方の暑い所に来たのですが、なんと最高気温28度です。風も吹いているのでプールはさすがに寒いです。この程度なら普通にランニングできそうです。しかし日本の酷い暑さから考えると南国ももはや避暑地レベルで、この異常気候はこの先どうなるのやら心配です。しかし、こう寒い(?)となんだか損した気分になるのは贅沢すぎますね。今週後半も暑いみたいで、帰ってからが不安です。今週木曜より通常通りの診療となります。
細野漢方診療所 細野孝郎