テレビのニュースやワイドショーなどで「梅雨型熱中症」と言うワードを最近良く見聞きします。熱中症の中で、そんな細かい分類までするのかと思って見ていました。そしたら何てことはない、その原因はこの時期特有の高湿度と高温だそうです。この時期は体が暑さにまだ慣れていないので、汗腺の働きも不十分です。本来ならば汗をかいて体温を下げたいのですが、それが上手くできません。そのため体内に熱が籠り(深部体温の上昇)、体に異変が生じてきます。これらは過去記事に詳しく書いていますので、ご参照下さい。
さて今回は梅雨型熱中症の原因と言われている高湿度と高温の影響について漢方的に考えてみます。そもそも漢方では大昔から、湿熱(しつねつ)と言う言葉があり(湿は水分と考えて下さい)、この湿熱が種々の症状を引き起こすと考えられています。湿熱とは湿邪(水による発病因子)と熱邪が結合したもので両者の性質を持った症状が出現します。ここでは湿熱とまとめて言っていますが、熱中症などを細かく考える(体質を考えると言うか)には、その最初の原因が主に湿あるいは熱にあるのか、それとも2つが結びついた湿熱による物か鑑別することも大切です。
1)湿熱邪によるもの
2)湿邪を受け、それが化熱し湿熱邪となる
3)内湿(体内の過剰な水分)が化熱し湿熱邪となる
以上、中医学入門 神戸中医学研究会 編著参考
の3タイプに分類されます。湿熱邪によるものは湿と熱との同時攻撃になります。東南アジアなどに行くとエアコンの効いた空港から出た瞬間に異様な暑さと湿度に悩まされますが、これが湿熱になります。しかし日本の梅雨はそこまで気温は高くありませんし、むしろ梅雨冷えする方もおられます。しかし熱中症になる方が多いのは、この時期では直接的な1)湿熱邪によるものよりも、2)にあげた湿邪により体内で熱を産生し、結果として湿熱となるパターンが多いのかなと思います。また3)の元々が体内に過剰水分の多い方は、更に湿邪を受けると湿熱邪となりやすいでしょう。
さてなぜ湿が熱になるの??と言う話になります。漢方には漢方独自の理論があり、その理論に基づいて診断を下し、それに対する治療法(漢方薬や鍼灸治療)を行います。なので漢方独自の理論ですが、湿邪を受け体内の湿が過剰になると、体の中で水(湿)の通路(三焦)が停滞します。三焦は水だけではなく同時に気(熱、エネルギー)の通路でもあるため、そこに気も停滞してしまいます。気が停滞すると悪寒がしたり、また気と水が相争うと発熱や熱感が生じて来ます。付け足しですが、三焦(さんしょう)とは、部位としての概念はざっくりと首から股の付け根あたり、つまり体幹だと思っておいて下さい。これまた上、中、下で分けて考えるのですが今回は省略します。
さて以上より今話題の梅雨型熱中症の発症機序、私なりの解釈は湿邪が体に入り込み、それが過剰となり気の停滞まで引き起こし、両者が揉めて熱くなってしまい、ついに湿熱となり病態を引き起こした、と言うことです。3)の体質的に水分過剰(水毒)な方は、元より停滞しやすいため、より少ない湿邪で停滞するので日頃から水分代謝には注意が必要です。と書くと水を我慢してしまう人や逆に無理やり飲む極端な人達がいるのですが、自分が必要とするだけ飲んで尿量を保つことは腎臓のためにも必要です。
全く話変わりますが、ここまで書いている時に湿熱タイプのニキビの方がお見えになりまして、やはり梅雨に入ってから症状は悪化しています。気候良くてカラッとしていた頃は顔もかなりスッキリしていたのですが、湿度がアップすると良くありません。湿熱は熱中症だけではなく、色々と不具合を起こす厄介な物です。
梅雨型熱中症、次回に続きます。
先日お墓参りに京都に行って来ました。東京を出た時にはそこまで暑くもなく湿度も普通だったのですが、京都駅を降りた瞬間に、何と言うか香港やシンガポールの空港を出た瞬間の様な暑さと、まとわりつく湿度を感じて一瞬で体を重く感じてしまいました。山で囲まれた盆地で、中心に川が流れているので湿度は東京の比ではありません。更に冬には盆地特有の底冷えがあり、冷たい空気が下に溜まって足元から冷えます。
この京都の気候を考えて作られた有名な処方として、桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)があります。吉益東洞(よしますとうどう)と言う江戸中期の医師が、高温多湿、底冷え環境のためか京都には水毒の患者さんが多かったので、水はけを良くして更に温める処方として創作したのが桂枝加苓朮附湯です。今では京都限定処方ではなく、慢性関節リウマチなどで冷え性の人で関節が腫れる(水毒)場合などに広く全国で処方されています。
細野漢方診療所 細野孝郎