前回からの続きになります。
さて、今回は明朗飲加菊花の構成を考えてみましょう。
明朗飲加菊花は茯苓、桂枝、白朮(蒼朮)、甘草、車前子、細辛、黄連、菊花の8種類の生薬より構成されます。最初の4つは過去に何度か出てきた苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です!
明朗飲加菊花=苓桂朮甘湯+車前子+細辛+黄連+菊花
となります。ここでの苓桂朮甘湯は眼の水分代謝を改善します。車前子(しゃぜんし)は牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などにも用いられていますが水分代謝の生薬です。車前子は菊花と合わせると肝熱をさますので、角膜混濁、角膜新生血管、羞明、目脂などに効果あると記載されています。菊花は菊花茶などの目に良いお茶として単独でも用いられ、明目作用があると言われています。「養肝明目の効力が強く肝腎陰虚による視力障害に使用する」とのことなので、言い換えれば肝や腎が疲れて目がスッキリ見えにくい場合に効果あるのでしょう。黄連や細辛にも同様に熱を冷ます(充血を改善する)作用があるのかと思います。
この様に明朗飲加菊花は、苓桂朮甘湯が合うタイプの人で目に炎症などがあり目が充血してる人に使います。先々代(祖父)の本を調べてみると、網膜剥離を伴った眼疾患に対して明朗飲に三、四種類の生薬を加えた漢方を処方して目が見える様になったと記載されています。ええ?本当かよ??と思いましが、明朗飲で調べると高血圧性網膜症に著効した例が学会誌にも他に報告されていました。どうやら上手に使えば効くみたいです。
しかし漢方治療(に限らず、治療とは)は「本に書いてあるから効くはずです!」ではありません。例えある処方が効いても、その処方への持って行き方(いきなり使うのか、それとも他の処方を経てから使うのか)、またどこまで我慢して継続して服用し続けれるかなどによります。そもそも効果が見えなければ、このまま継続で良いのかどうか、処方する側も服用する側も不安になります。例え豊富な治療経験があっても(あればあるほど、とも)迷うことは多々あります。なので正直に言って、目の漢方治療も経験豊富な所に行かれた方が良いです。内科の私から見ると、眼科や精神科はちょっと特殊な感じで専門性が高いと思っています。内科・小児科とか産婦人科・内科とか、兼ねているクリニックは街で多々見かけますが、眼科・内科とか眼科・婦人科とか見たことありません。眼科は眼科だけ、それだけ複雑な専門領域です。疲れ目とか、目がスッキリしない、単なる充血などは私もそれなりに治療経験ありますが、それ以上の状態、何とか変性症とか網膜何とかとのレベルだと眼科漢方を得意にされている先生を探してみて下さい。残念ながら関東近辺は分かりませんが、関西圏には眼科漢方が得意な先生がおられます。そこの先代の先生とは大昔に何度かご一緒しましたし、書かれた本(漢方眼科診療35年)を今でも参考にしています。
ここの所、食べ物の写真ばかりですが、それは他に変わったことがないからです。しかも普通ならば今回は「目」と来ればブルーベリーですよね(笑)友人の眼科の先生によると、ブルーベリーが目に良いと言う科学的根拠はないそうです。写真はキノコ、干貝、ツブ貝、チキン、そしてクコの実のスープです。日本ではこれだけのスープはなかなか飲めません。塩分をあまり感じることなく、そのためこれらの食材の旨みがシンプルに感じられます。しかも複数の食材が絡み合って旨みを形成しているので、奥が深い味わいです。テレビの食レポで言っている「あっさりしているけれども、コクがある」と言う感じでしょうか。あっさりしてコクがあると言われても、それ結局どっち?って話しですが(笑)
そしてここから少しコクのある話になりますが、このスープに入っているクコの実(赤い種みたいな物)は漢方では枸杞子(くこし)と言って、目の疲れや目のかすみに使われる生薬です。前回、名前だけ紹介した処方、杞菊地黄丸(こきくじおうがん)は六味丸(八味地黄丸から桂枝、附子を抜いた処方)に枸杞子や菊花を配合した処方となります。食養に関しては詳しくありませんが、このスープは医食同源で滋養強壮作用を意識して作られたのでしょう。因みに私の食養生は「好きな物を好きなだけ食べる」です。
さて、関東地方も遅い梅雨入りをしました。蒸し暑い日が続き、テレビなどで梅雨型熱中症とか翌日熱中症とか特集していましたが、いつの間にか熱中症も細かく分類される時代みたいです。私は昨年のこともあり、2週間前ほどからかなり気を付けています!昨日は上り坂は走らずに歩きました(笑)と言うことで、次回は梅雨型熱中症について漢方的に考えてみましょう。皆さんもお気を付け下さい。
細野漢方診療所 細野孝郎