• 内科医師からスタートし、現在は三代続いている漢方専門のクリニックを銀座で開業中。女性系疾患(月経関連、更年期、 不妊症など)、アトピー性皮膚炎などから、ちょこっと体の弱い人までお見えになります。趣味はマラソン(基本的にはインドアでテレビ派)、猫(アメショ)、週に1回の外食。マラソンはsix stars finisher(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨーク)日本人では338人目位の達成!!

家方清暑益気湯=近製清暑益気湯プラス5つの生薬

前回からの続きになります。前回も書きましたが、家方清暑益気湯は近製清暑益気湯プラス5種類の生薬から構成されます。この5種類が檳榔子呉茱萸木瓜昇麻葛根です。足がだるくて重い、いわゆる脚気様症状の時に使う鶏鳴散(けいめいさん)と言う処方があります。これは檳榔子、呉茱萸、木瓜、陳皮などから構成されます。また浅田漢方(伝統的な日本漢方)には、九味檳榔湯(くみびんろうとう)と言うこれまた脚気様症状に使う処方があります。この処方も檳榔子、呉茱萸、木瓜などが主成分として含まれています。これらの処方(鶏鳴散や九味檳榔湯)を近製清暑益気湯に合わせた感じになるのが、当院で最も処方する家方清暑益気湯です。更に、昇麻は補中益気湯(近製清暑益気湯からは抜かれている)にも含まれているのですが、これには体の沈んだ気を引っ張り上げてくれる作用があります。葛根には発汗作用があり、それにより体温を下げてくれるます。前回では黄耆には皮膚を引き締めて無駄な発汗を抑えると書きました。あくまでも引き締めると言うことは緩んだ状態を正常な状態に戻すことであって、過剰に締める訳ではありません。緩んだ皮膚からは水分が過剰に漏れ出てしまうから引き締める必要があります。葛根と合わせることによって変な汗(寝汗など)による脱水を予防し、更には良い汗を適度にかかせることによって体温を調整するのです。

以上のことから家方清暑益気湯とは、猛暑の熱で弱った胃腸を整え、篭った熱を冷まし体温を調整し、水分代謝を改善することで体の怠さを解消し、更には血の質も改善する処方です。

思った以上に効果的な家方清暑益気湯

6月の末頃に、自分より少し若い同業者の方が「最近怠くて怠くてたまらんです、体がメチャクチャ重くて、そんなに食べていないのに体重も1キロ増えてしまった」と訴えて来られました。老人の方ならば迷わずに家方清暑益気湯ですが、少し若いので体重増加は浮腫みもあるのだろうと思って、五苓散あるいは五例散合九味檳榔湯(五苓散に九味檳榔湯を合わせることによって足の怠さなどを更に改善する作用があります)などが思い浮かんだのですが、舌診では五苓散ぽくなかったので悩みつつも家方清暑益気湯を2週間処方してみました。思いの外それが著効して、2週間後には「凄く効きました!まず尿量が増えて体が軽くなって、疲れて疲れてしんどいことはなくなった!」とおっしゃいました。今年も酷暑になりそうなので、これらの清暑益気湯を上手に処方して体調良く過ごして頂ければと思います。

ただもっと若くて元気が溢れている人で熱が篭った感じになるのならば、五苓散に柴胡剤、石膏、更には麻黄剤などで、体内を積極的に冷ましても良いでしょう。まぁそう言う人は夏バテだと言って漢方なんか貰いには来ないですよね。

自分の夏バテ処方は胃苓湯(散)

と、ここまで書いて家方清暑益気湯じゃないのか!と思われるでしょうが、私の体では家方清暑益気湯の良さがあまり実感できません。あまり怠いを感じないからなのか、暑い中を走っているので発汗機能が充分にあるからなのか、自分の状態には焦点がしっかり合わないのです。私の夏バテは、水分過多によるお腹の不調からです。この時期に10キロ走ると2〜2.5リットルの発汗があります。これは運動前後の体重と飲水量から簡単に分かります。なので単純に考えても走る前後で合わせて2リットル以上の水分を胃腸が吸収してくれないと脱水になってしまいます。しかも運動負荷がかかっているので、平常時より吸収力が落ちています。以前ならばその程度の水分は何ともなかったのですが、今では走る前に1リットル、途中で0.5〜1リットル、帰宅後に0.5リットルでお腹はチャポチャポです。この胃腸の水分吸収に的を絞ったのが胃苓湯(実際には散剤にしているので胃苓散)です。

胃苓湯=五苓散+平胃散

です!もしかしたら五苓散でも平胃散単独でも効果あるのかも知れませんが、何となく長年の習慣を変えるのが面倒なだけかも知れません。と言うことで、私の熱中症対策は氷嚢胃苓散、カロリーゼロのスポーツ飲料と午後は寝転んでテレビを見ることです!しつこい様ですが、単に外へ出なければ良いだけの話なのですが・・・・・・
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細野漢方診療所 細野孝郎