ここのところ不妊症の漢方治療の話が続いていました。まだまだ肝心なことを書いていないので、あと3〜4回程続きそうな感じですが、ここ最近は猛暑が続いていますので今回は話を変えて当院で処方する、いわゆる「夏バテ」処方について書いてみます。
夏バテと言っても症状は多々ありますが、その方の弱点に合わせて症状は出やすい印象です。例えば最初に胃腸がダメになる人、ともかく怠いだけの人、脚が怠い人、熱が篭って動悸やめまい、頭痛の出る人など。恐らくは胃腸系が最初にダメになるタイプの人が一番多いでしょう。胃腸系の症状は一番厄介で、吐き気で水分が摂れなくなると病院で点滴になってしまいます。一生懸命水分を摂っても、嘔吐してしまうと脱水になります。よくテレビなどでワンパターンに「充分に水分を摂って下さい!!!」とか言っていますが、限度を超えると吸収しないどころか、胃内に溜まり過ぎて吐き気がしたり嘔吐してしまうでしょう。対策としてはお茶や水ではなく、消化管から吸収しやすい飲み物(スポーツ飲料や経口補水液)を飲んで下さい。おそらく胃への負担が全く違うと体感できるでしょう。
更には胃腸の水捌けを良くする漢方、例えば五苓散でも良いかと思いますし、平胃散などは更に良いと思いますが、これらを服用しながら胃腸に水分を溜めすぎない様にするのが夏バテ防止の大基本だと思っています。元々は胃腸に水分が溜まりやすい人には、六君子湯などでも良いかと思います。エアコンなどで胃腸が冷える人には、むしろ人参湯などで軽く胃を温めてあげれば胃腸機能は回復します。胃腸系だけの段階を超えてしまった時には、表題の清暑益気湯(せいしょえっきとう)などが適応となって来ます。
昨年の記事では当院には3種類の清暑益気湯(せいしょえっきとう)があって、そのうちの内外清暑益気湯について書いていました。しかし当院で最も使っている清暑益気湯は、家方清暑益気湯と言って14種類の生薬より構成されています。保険診療などで使われる清暑益気湯は近世清暑益気湯であり9種類の生薬より構成されます。この近世清暑益気湯は補中益気湯をベースとし、柴胡などの比較的強い生薬を抜いて、生脈散と言う過度の発汗などによる体液の損失を予防する処方が組み込まれています。これだけ暑い日が続くと、水分を十分に摂っているつもりでも胃腸からの吸収力は落ちているので、気づかないうちに脱水状態になっているはずです。近世清暑益気湯はこの脱水を予防し、更には体の気(エネルギー)を増やしてくれる処方だと考えて下さい。
近世清暑益気湯の9種類の構成生薬を簡潔に説明すると、人参、白朮、陳皮は胃の動きを亢進して食欲を増してくれます。黄拍は湿熱を冷ます作用があり、体に過度に篭った熱を冷ましてくれます。麦門、五味子、甘草は脱水予防と考えて下さい。黄耆には皮膚の働きを良くする作用があります。夏バテなどで体の機能が低下すると同時に皮膚機能も低下し、過剰に汗が漏れ出てしまいます。そうなると脱水により一層拍車がかかってしまうため、それを防ぐためです。当帰は脱水や食欲減退などで弱った血液の質を上げる作用があります。
当院で良く使っている家方清暑益気湯は、この近世清暑益気湯に更に5種類の生薬を加えた処方になります。基本的に漢方薬は構成生薬が少ないほど効きが早くシャープです。逆に14種類もの生薬が混ざった処方は効果が自覚しにくい傾向にあります。と言うことで、自分も長年い渡って若い人の夏バテには近世清暑益気湯、ちょっと年齢が入った人には家方清暑益気湯と以前は使い分けていました。しかし自分の使い方が悪いのか何が悪いのか分かりませんが、近世清暑益気湯は思ったほど手応えがありません。みんな「う〜ん、ど〜なのかなぁ、良かったのかなぁ??」と言う感じです。一方、家方清暑益気湯は「足の怠いのが取れた」「体の重いのがなくなった!」「食欲も出てきた!」など、「体全体が怠くてしょうがなかったのがスッキリした!」など具体的に改善点を言ってもらえる処方です。そう言う例が積み重なって来て、もう何年か前からは若い人にも家方清暑益気湯を処方しています。構成生薬を見てもそこまでの違いがあるとは全く思えないのですが、長年やっているとこう言いう理屈が付かないことも経験値として積み重なっていくのかなと思っています。次回は家方清暑益気湯について書いてみたいと思います。
飽きもせずに35度越えの日の午前にランニングをしていて、歩きに毛の生えた程度のスローペースだから大丈夫かと思っていましたが、4キロ手前に200メートルちょいの登り坂があってこれが難所です。あまりにも暑いとこの坂で心拍が上がりきってしまいます。その日も坂を上がり切ると心拍160回/分以上にまで上がって、立ち止まってもなかなか下がらないので木陰でスポーツ飲料を飲みながら一休みとしました。帰ろうと思い立ち上がると、軽い眩暈や吐き気なども感じましたが、吐くと一気に脱水になるのでそこは気合いで我慢(笑)公園の水道で頭から浴びて、心拍が下がるのを待ってゆっくりとジョギングして5キロ戻って来ました。歩くと帰宅に1時間以上はかかる地点での故障発生は大変です。
帰宅後は深部体温を下げようと素麺を食べたのですが、安静時心拍が75といつもより20以上高いので氷嚢を頭や腋、首に当てて冷却です。テレビを見ている間に回復!冷たい物を食べるのも良いのですが、過剰に食べてしまうと胃腸が冷えてしまう(これまた夏バテの原因)ので要注意です。
暑い中を買い物へ行ったり、出勤したりすると同様の症状が出る人も多いと思います。皆さんも同じかも知れませんが、自分の場合は熱中症の前兆は心拍が上がってしまうことです。今はスマートウォッチで心拍は誰でもモニター出来ます。当院の患者様もスマートウォッチしている方が多いのですが、「そんなの見たことない、どうやって心拍見るの??」と言う方も多いです。スマートウォッチをしている方は、せっかくですので一回は心拍をモニターして下さい。ピークアウトしそうならば試しに氷嚢やアイスノンなどで冷やして心拍を下げれば、体も楽になり酷い熱中症予防となるでしょう。
ここまで書いといて今更ですが、そもそも外に出るな危険とテレビでも言っているので、素直に従って外に出なければ良いだけの話なのですが・・・・・・
昨年も同様な記事を書いていますので、よろしければご参考下さい。過去記事一覧はこちらから。
細野漢方診療所 細野孝郎