アトピー性皮膚炎の方が病院や薬局などで漢方をお願いすると、最初に温清飲(うんせいいん)を処方されることが多いでしょう。これは当院に見えるアトピー性皮膚炎の患者さんの傾向から見てもそうです。温清飲を処方されて、それでも治らない、または悪化したためにお見えになるパターンが結構多いです。そもそも温清飲で改善する人はその時点(最初に処方された)で改善してしまうので、わざわざウチみたいな漢方専門の病院には来ないので、最初から温清飲でどれくらいの人達が改善するのかの正直僕には分かりません。むしろ最初から温清飲で良くなる人達は多数派で、悪化したり治らない人達は少数派なのだとも思っています。今回は温清飲で良くならない人は勿論のこと、温清飲で良くなった人も今後の漢方治療の参考に読んで頂ければと思います。
この温清飲と言う処方はとても良い処方ですが、ただ使い方が少し厄介で、時に副反応が出てしまいます。ズバリ言うと赤くなってしまいます。つまりアトピー性皮膚炎などで炎症が強く皮膚が真っ赤な時に温清飲をいきなり飲むと、より赤くなってしまことがあります。炎症が強い時にのんびり湯船に浸かってしまって、真っ赤かになって痒くなった経験のある方もおられると思います。それと似たような状態だと思って下さい。しかしこれは悪いことだけではありません。温清飲により皮膚の血流が改善したために起こることだからです。皮膚の血流が良くならないと、乾燥したり黒くなった皮膚は元の健康な皮膚に戻りません。この副反応は経験上、たいていは1週間から2週間の間に起こります。一回赤くなっても、その後は何事もなく改善して行く方や、そのまま悪化してしまうなど経過は様々です。ただアトピー性皮膚炎でダメージを受けた肌を少しでも元の綺麗な肌、健康な肌に戻すのにはここ(皮膚血流改善)を乗り越えなければなりません。中には健康で綺麗な肌、美容的なことは関係ない、痒いのさえ治ればと思っておられる方もおられます。しかし健康的な肌(イコール綺麗な肌ですが)でなければ、つまり薄くて水分や油分の少ないバリアー機能の弱い肌は、軽度の引っ掻きでも感染してアトピー性皮膚炎の悪化に繋がります。少し良くなっては引っ掻いて悪化する、のループから脱出しなければなりません。目指す所は、綺麗な肌(できれば美白)や健康的な肌(多少引っ掻いても大丈夫)です。そのためには温清飲(もう少し細かく書けば、その中に含まれる四物湯)を避けて進むことはほぼ不可能です。一度温清飲で挫折した方には、副反応を避けるために真正面からではなく、何とか工夫して上手に温清飲に移行する方法もあります。次回より温清飲の構成生薬や、また温清飲が含まれる処方などを考えて、アトピー性皮膚炎の漢方治療を見て行きましょう。
ここ銀座で漢方診療をして30年以上になりますが、長年やっていると色々な方がお見えになり経験値も上がって行きます。あるアトピー性皮膚炎の患者様ですが、お酒が好きで必ず週に一回は飲まれるそうです。そして飲むと必ずアトピーが悪化します。飲まなければ良いだけの話ですが、「可能な限り自分の好きなことをやりながら無理せず治していく」のが理想です。我慢の連続であるのならば、治療は苦痛であり絶対に長続きしません。勿論こちらとしては我慢できる範囲で我慢して欲しいのですが、でもどうしてもお酒を飲みたければ飲めばよい、それがその人にとって大切な楽しみならば、止めろだの我慢しろは大きなお世話です。その中でどうやって折り合って行くかが大切だと思っています。ただ大酒はやめてね、と言うのが私の基本姿勢です(大酒の基準は人によるのでしょうが)。うちは祖父の代から基本的にこの方針は変わっていません。
お酒と言えばタバコもです。時代が違うとは言え、祖父なんか「タバコの様な嗜好品は、自分の体に合ってると思えば吸えばいい」と書いていましたし、父は「吸いたければ食後の一本程度にしといて」と言っていました。時代変わって、さすがに僕は「世の中もう吸ってる人も少ないから、これを機に止めたら??」と言います。どこもかしこも禁煙で肩身狭いですし。
話を戻しますが、そのアトピーの方ですが、お見えになった時にはたいてい皮膚が赤くて炎症があり、状態はよろしくありません。「大酒飲むまでは調子良かったのですが、飲んでから真っ赤になって、これでも今は少しマシになってる方です」とおっしゃいます。毎週末に大酒を飲むそうで、火曜にうちにお見えになるので、まぁ皮膚はそんな感じでしょう。週末にお酒を飲んで悪化して、落ち着いたら週末がやってくるループ状態です。やはり「これ(酒)が楽しみで生きているんですよ」とニコニコとおっしゃるので、そこで考えたのは、お酒を飲む日と翌日だけ解毒力の高い処方に変えることです。普段は温清飲に近い感じの処方にしていますが、大酒飲む前後は黄蓮解毒湯に茵蔯蒿を増量の強力デトックス仕様です。ご本人曰く、それでお酒を飲んでも皮膚の調子も良く、何より飲んだ翌日の体の怠さがはるかに改善したそうです。
基本的に大酒は皮膚だけではなく、体にダメージを与えるので、小酒程度にして頂ければこちらとしても助かります。基本的にそれが楽しみであるのならば、アトピーの悪化しない範囲でお酒も甘味も楽しんで頂ければ良いかなと思います。ただ気を付けて欲しいのは、疲れている時には解毒力が下がるので、いつもより少量のお酒や甘味でアトピーが悪化することがあるので注意して下さい。
アトピーの治療は基本長期に渡るので、まずは自分に合っている方法を見つけてブレずに根気良く続けるのが大切だと思います。逆に、厳格な食事療法や生活管理に基づいたストイックな漢方治療が自分に合いそうならば、それが得意な病院をみつけて、それを信じて続けることです。都合の良い部分のみ両者良いとこ取り折衷案など、色々とあるでしょうから自分の感覚で選ぶのが肝心です。
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細野漢方診療所 細野孝郎