以前より、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の基本は五苓散だとか、柴苓湯(さいれいとう)は五苓散と小柴胡湯(しょうさいことう)を合わせた漢方だなど、五苓散について書いて来ました。最近、五苓散を検索して当院のwebにやって来られる方が多いので、ここにあらためて纏めておきます。
過去にも五苓散について書いています、よろしければご参照下さい。
五苓散は5種類の生薬から構成される漢方で、水毒(水滞)の代表的な処方です。水毒とは過剰な水分が体内に停滞するために生じる諸症状のことです。水の偏在する場所により、水毒は4つのパターンに分類し、それぞれに対して漢方を選ぶ必要があります。五苓散は主に、全身型の水毒に対して用いる処方で、口渇や尿量減少があれば、それが五苓散証の一つとなります。
五苓散の構成生薬は、猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、沢寫(たくしゃ)、桂枝(けいし)、白朮(びゃくじゅつ)の5つです。桂枝以外の4つの生薬に水分代謝を調整する作用があります。桂枝(桂皮)には気の流れ(エネルギーの流れ)を下方に持ってくることにより、水分代謝を更に促進させる作用があります。エネルギー(気)が上手く循環しないと水分排出も上手く行かないのです。
以前にも書きましたが、お天気頭痛にも五苓散は良く効きます。しかし実際に頭痛でお見えになる患者様は、お天気頭痛は当然のこと、更には胃腸系の冷えによる頭痛もお持ちの方が多いです。胃腸系の冷えによる頭痛や偏頭痛などには、呉茱萸湯(ごしゅうゆとう)と言う処方を使います。季節にもよりますが、頭痛を主訴にお見えになった方には五苓散や呉茱萸湯を基本に処方を組み立てます。春から梅雨の頃に五苓散で頭痛が上手くコントロールできていた方が、晩秋頃になると「最近、なんか薬が効かなくなって来た」とおっしゃいます。この場合、冷えもあるので呉茱萸湯に切り替えるのも良いのですが、五苓散を半量まで減らして、呉茱萸湯を2/3量程度加えた合方を処方しています。季節変わって水毒が優位になってくると、また比率は変えるのですが。なぜこの様な処方になるのかと言うと、何例も同じ様な方を拝見してきて、今までは五苓散を中止にして呉茱萸湯にスパッと切り替えていました。暫くは頭痛も良いのですが、2〜3ヶ月すると、「なんか前のが良かった気がする・・・・・」みたいな微妙な感じなのです。そこで苦肉の策として五苓散と呉茱萸湯の合方にしてみると良く効いたからです。
実は五苓散は胃のむかつきや吐き気なども抑えてくれる作用があります。五苓散に含まれる、茯苓、白朮の生薬は胃腸系の基本生薬でもあります。消化管内の過剰な水分を排出してくれる作用があります。胃腸系の代表的処方の六君子湯(りっくんしとう)は、全量の1/3が茯苓、白朮ですし、また人参湯(にんじんとう)にも白朮が含まれます。もちろんいわゆる胃薬系の漢方を服用した方が効果はあると思うのですが、意外にも五苓散に含まれる程度の生薬や量でも胃がスッキリした方も多くおられます。お天気頭痛や浮腫みなどで五苓散を飲んでおられる方は、「なんか最近胃の感じもスッキリしてきた」と体感できるかも知れません。
ちょうど今タイミング良く電話診療があったのですが、その方は産後の浮腫が酷くて五苓散を服用されている方です。食欲や睡眠は十分なのに、なぜか体がだるくてしょうがないとおっしゃっていました。本当は胃のムカムカを書いて終わるつもりでしたが、タイミング良すぎたので蛇足ながら少し書き足すことにします。「だるい」などと言うと、一般的には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大捕湯(じゅうぜんだいほとう)などを深く考えずに処方されてしまうでしょうが、この場合はそれはダメです。そもそも五苓散を飲んで調子が一回良くなっていますので、水毒が根底にあると考えるべきで、五苓散をいきなり抜いてはダメです。五苓散に何かを加えて調子を戻すべきです。「産後」、「女性」となると四物湯類を加えるべきだと思います。
五苓散+四物湯≒当帰芍薬散
なので、今回は当帰芍薬散を選択してみました。
話があちこちに逸れて、ちょっとまとまりがない感じですが、五苓散は基本中の基本処方で、その派生処方が種々あります。桂枝を除く4つの生薬(猪苓、茯苓、沢寫、白朮)のいずれか、または組み合わせで含まれている漢方があれば、「水はけ良くする生薬が入っている!」と思って飲んでみて下さい。
さて、「ブログ見てるんやけど、ところで、シックススターってなんですねん?」といつも薬を送っている京都の患者さまから聞かれました。その方はお祖母様の代から当院におみえで、うちの祖父、父、そして現在は私が拝見(電話診療ですが)している方です。「それね、東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークのマラソンが6大メジャーレースと言って、それを全て完走した人に与えられる栄誉で、今のところ世界中でも12000人程度なんですよ」と自慢しておきました。「へー!そら大変なこっちゃな!!世界で何人とか、そこまで極めたらお父さんも喜んではるわ、そら。ところで京都マラソンは出はったことあるの?」と不意打ちが。喜んでないとは思いますが、そんなこと言い返すと怒られるのでここは静かにしておきます。京都マラソンは実は出たことあるんです、しかも2012年の第一回大会に出て3時間45分程度でした。その当時は、今は京都で鍼灸院を開業している聖光園の職員(高津鍼灸師)などが荷物受け渡しのボランティアをしたり、それも懐かしい思い出です。シックスメジャーも取ったので、そろそろ来年あたり京都も良いかなとその電話で思い始めています。
これは今年のボストン、ロンドンが終わった時点でのシックススターフィニッシャーの国別の統計です。アメリカで3レース、ヨーロッパで2レースですが、世界中のランナーが参加しているのが分かります。アジア諸国やオーストラリアの人達は常に時差を超えて移動してフルマラソンを走らなければならないので過酷です。、東京マラソンがあるだけ我々日本人は楽なはずですが、残念ながら日本人達成者はまだ364人だけです。
この表の左下にありますが、最高齢の達成者は86歳9ヶ月です。確か女性の方だったと記憶していますが、睡眠、食生活、トレーニング等を含めて、どういう生活を送っておられるのか興味があります。自分はその年までまだ26年!もありますが、もういいです(笑)誰かウチの患者さんが更新してくれれば大感激ですけど。まぁ、そこまで行かずとも皆さんがそれくらい元気であれば嬉しいです。
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細野漢方診療所 細野孝郎