前回のブログでも和中飲を書いたのですが、これが思ったより好評で嬉しい悲鳴です。ちなみに和中飲の構成生薬は枇杷葉、桂枝、縮砂、我朮、藿香、呉茱萸、木香、丁香、甘草の9種類です。
先日、生薬問屋さんが京都から訪ねて見えた時に、当院(細野漢方診療所)の和中飲を試してもらいました。この問屋さんは以前より当院に生薬を卸していて、社長とは長いお付き合いです。社長も時間の経過と共に和中飲の味が段々と変わっていることを少し疑問に思われていたそうです。当院では私の祖父の頃のレシピを引っ張り出してそのまま再現しましたが、「これや!これが昔の味や!」だそうです。あともう一点、前院では枇杷葉(びわよう)がいつの間にか細かく粉砕されていた(保存のため)のですが、当院では生薬を少量ずつしか買わないので、保存することなくそのまま直ぐに調剤(作成)するため枇杷葉もざく切りの短冊形です。これがまた味の出方が違う理由なのではないかとのことでした
さて今回は和中飲の中の桂枝(けいし)について見てみます。桂枝はクスノキ科の植物で、むしろシナモンと言った方が馴染みがあるでしょう。漢方では桂枝は主に皮の部分を用います、よって桂皮(けいひ)とも呼ばれるのです。
前回のブログで、女性の代表的処方として当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を紹介しましたが、女性系処方でこの桂枝の使われている代表的処方が桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。分かりやすいことに処方名に「桂枝」と入っています。これは当帰芍薬散よりもより強い体質、または瘀血(おけつ)の強い人に用いる処方です。また葛根湯(かっこんとう)の中にも桂枝は含まれます。葛根湯はご存じの通り、風邪などの初期に用いて発汗させて解熱させる作用があります。更には苓桂朮甘湯(りょうけいじゅっかんとう)、これは読んで名の如く茯苓(ぶくりょう)、桂枝、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の4つの生薬の頭の漢字を取ってそのまま名付けられた感じの処方で、眩暈(めまい)やメニエール症候群などの時に、耳鼻科でも気軽に出される処方です。働きとして三半規管の水分代謝による異常を茯苓や白朮などの駆水作用のあるもので調整し、更には桂枝が頭部で動かない気(エネルギー)を体の下の方に下げる作用があります。
以上より桂枝の漢方的作用としては、葛根湯などより発汗(軽度)作用がある、桂枝茯苓丸より瘀血に対する作用がある、更には苓桂朮甘湯より頭部の気を下に下げる作用があります。
桂枝茯苓丸の桂枝は駆瘀血作用と書きましたが、実は気(熱)を下げる作用が強く現れ、更年期障害の時などの「のぼせ」や「ほてり」が桂枝茯苓丸でサッと良くなるのはそのためです。
そして一番肝心な和中飲の桂枝の働きですが、桂枝は気を下げる作用と同時に体の気を軽く回す作用もあります。下(体幹)も軽く回るから、上(頭部)からも下がりやすいのです。この巡気作用が胃腸を動かすので水分の吸収も良くなり、また食欲も落ちにくくなるので夏バテ対策のお茶として最適なのではないでしょうか。また桂枝はシナモンと書きましたが、軽度の甘い味と良い香りがするので、これもまたお茶に入れる生薬としてはピッタリな所以です。
さて、当院の患者さんから「和中飲を作っているところの写真をもっと見たい!そう言うのがこちらとしても良いんだ!」と言われましたので、ちょっと撮ってみました!1パックにつき生薬9種類を計量するのでそれなりに手間がかかります。
早くもネタが尽きて来たので今回は食べ物や猫の話(オチ)はお休みです(笑)
細野漢方診療所 細野孝郎